本の中の宝石
2019/07/01
振り仮名のことを印刷用語で「ルビ」と言います。
これは19世紀のイギリスで、活字のサイズを宝石の名前で区別したことが由来です。「ルビー」と呼ばれた5.5ポイントのサイズの活字は、日本の印刷でふりがな用に使用した5.25ポイントの活字に最もサイズが近かったため、日本ではふりがな用の活字を「ルビー」と呼ぶようになりました。
ほかに、エメラルド(6.5ポイント)・パール(5ポイント)・ダイヤ(4.5ポイント)などがあります。
ルビは、漢字・ひらがな・カタカナを駆使する日本語ならではの印刷文化です。
さらに、難しい漢字の読み方を記すルビと、意味を示すルビがあります。
例えば、「四顧」に「しこ」と振ってあれば、読み方を示すルビですが、二葉亭四迷はツルゲーネフ『あいびき』の訳で、「四顧して」に「みまわして」とルビを振り、この漢字の意味を示しています。
四迷はほかにも、『浮雲』で「莞爾」に「かんじ」でなく「にっこり」と振るなど、楽しいルビをたくさん使用しました。四迷に限らず、文豪はルビによく工夫をこらすようです。
浮世絵でも「写真」に「しょううつし(生写しのこと)」、「娼妓」に「じょろう」などの振り仮名が見られます。
一歩進んで、現代の作品では、「このように読んでほしい」という筆者の希望を示すルビも盛んですね。「宿敵」に「とも」、「宇宙」に「そら」などはすでに一般的で、ライトノベルやコミックでは「回転式機関砲」に「ガドリング・ガン」と振るなど、日本語に外国語の読みを振るケースもよく見られます。
正しい読みを示すほかに、意味やニュアンスまで表現できるルビは、まさに本の中の宝石と言えるでしょう。
※一部、歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに直してあります